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ノールズ

Knolles

アディーネル家から百五十年ほど前に分籍した家系。先に分かれたグレン家があったがそちらは後年断絶した。
〈淀み〉を形成し〈門〉の機構に関わる精霊の契約者。契約の根幹は当主にあるが、ノールズの中核を成す者は各々個別の契約が可能。
アディーネルにとっての竜のように、精霊の宿る大樹を象徴としている。
アディーネル家に従属する立場ではなく、共に〈門〉を維持し、時にはアディーネルの逸脱を抑止する立場として同格とされている。
アディーネルの鍵守や継承候補者には、それぞれノールズの人間が補佐につくのが通例。鍵守の補佐役を連枝(れんし)と呼ぶ。

アディーネル

Addeanel

南の〈門〉を管理する鍵守の一族。
当代の鍵守を含め、構成員の情報のほぼ全てが秘匿されている。
貴族ではなく政と距離を置く姿勢をとっているが、建国王アルドの庶子ギルドールから直系の血統を残している希少な家系であり、〈門〉を中心とした学術都市キルネスの自治権が認められている。
歴代王室から姻戚関係維持を求められており、実質的に政治上の発言力を持つと見做されている。

鍵名(けんめい)

tonic key

南の鍵守が在任中に名乗る、鍵としての名。現在の鍵名は『マギ』。
これ自体も尊称ではないが、アディーネルは貴族位になく鍵守にとって個の人格は重要でないという思想から、敬称もつけずに呼ぶのが慣例。
降任後はその鍵守を端的に表した称号が与えられる。前任の称号まで含めた鍵名は『〈合鍵〉フォルリー』。

名前 / 生名 / 真名

name / birth name / true name

名前は、霊気の塊であるが個を成す為の箍として機能する。特に精霊の場合、生命維持の上で生物における肉体と同等に重要となる。
その者の出生時に命名された名を生名、生名以外に付け足されたもの等を含めた正確かつ欠けのない名を真名と呼ぶ。
正確な名前を知られることは、魂の在り処・有り様を知られるのに等しく、精霊や霊的異能者にとっては致命的なことである。
式士魔術士は基本的に生名を明かすはことなく、また、様々な機に新しく名を加えるのが一般的。命名すれば良いというわけではなく、少なくとも本人が自身を指す名だという認識を定着させる期間が必要。他者からも呼ばれるのが確実だが、秘匿したい場合は日記等に習慣的に記名したり、思考中に自身をその名で表したりする。
また式士は契約時に、精霊と人間が互いに正確な名前を開示し合うが、契約が二つ以上ある場合は個々の契約で一部分のみ違う名にすることも多い。


star

夜間、空に見える細かい光の点。いわゆる天体ではなく、太陽と月が作られ天蓋に上げられた際、砕けた微細な欠片が黄道を外れて浮遊しているもの。月陽の性質は残しており、魔力を帯びて金色に輝く魔石である。
月陽が黄道を移動するのに引きつけられて撹拌されるため、黄道を境として両側に大きく緩やかな渦を成すことが多い。器の水面に浮かぶ粉の中央に、水平に息を吹きかけたような状態。個々の星は無軌道。特定の星の動きを追跡して天蓋の状態を研究している者もいる。
北大陸付近では、稀に流星として星が地表に落下することがある。

月陽

Sun / Moon

いわゆる天体ではなく、天君以前の最上位の存在であった創世主が変じたもの。強い魔力を帯びた魔石で、コクレアニム霊気を供給・撹拌している。二つを比較すると、太陽の方が魔力が強く、月の方が霊気の放出量が大きい。
正中前後は白光を放つが、地平に近づくほど金色になる。太陽はその傾向が顕著で、朝夕は空全体を金色に照らす。コクレアニムでの夕焼けが赤くなることはない。月は比較的黄みを帯びたのが常態。
常に一定の周期で周回し、月の外観が欠けることはない。概ね半球をなす天蓋の中央を通るため、観測位置によって見える方角が変わり、霊的な影響力も異なる。黄道直下にある東大陸は、他の地域に比べ霊的に豊かで精霊・生物ともに生育に良い効果がある上、土地も肥沃な傾向がある。また、太陽は放熱、月は冷却を行っているため、地域の平均気温に影響する。
月陽の機能は緩やかな強弱の周期があり、一方が強まる時期は他方が弱まる。光量、放熱・冷却力、霊的機能がそれぞれ増減する。太陽の最も強まる時期を基準に、その一巡を気候的な一年とする。これは必ずしも一定ではないため、徐々に暦とのずれが発生する。数年から十年程度でひと月ほどのずれに達した場合、閏月が設けられる。
太陽の最も強い時期が夏、弱い時期が冬でそれぞれ三ヶ月程度。月は太陽に応じた大きな周期よりも、年あたり二十前後発生する小刻みな周期の方が外観上観測しやすいため、その最も強い時期を満月、弱い時期を燥月(そうげつ)と呼ぶ。また、月陽ともに年周期よりも長大かつ不定の周期があり、冬の太陽や燥月よりも格段に機能が弱まり、ほぼ無に近くなる現象がある。数時間から一日程度、数年から数十年に一度発生し、(しょく)と呼ばれる。


calendar

東大陸の過半で用いられる暦はエルカナ暦。
十日で一旬、三旬で一月、十ヶ月で一年。各月第一旬を『(あけ)』、第二旬を『(ゆき)』、第三旬を『(つい)』と呼ぶ。
日付はどの旬の何日目かで表現し、『明旬第一日』となるが、日常会話では『明一』などと省略されるのが普通。
コクレアニムでは昼夜の長さは常に等しく一定であるので、時刻は日の出と日没を基準に設定されている。一日を昼夜で二分割、更に正中で二分割、更にそれぞれ三分割した計十二分割を時刻としている。(作中表現上は現実の二十四時間制に換算)

〈穴〉

holes

犯罪または犯罪になりかねない類の口入れや、情報の売買を行う場所の通称。〈蛇〉向けの仕事などを含む。こうした場所のうち、〈土竜穴〉の管理者を筆頭とする管理体制下にあるもののみ〈穴〉と呼ぶが、どこが該当するかの正確な情報が周知されているわけではない。

土竜(もぐら)穴〉

the Mole Hole

王都の主に地下に巡らされた隠し通路、およびそこを行き交う情報網。管理者がいる。

〈狭間の石〉

Stones in the Void

創門時から現在までに、間界に隔離された金眼の総称。間界に入った時点で元の自我は失われ、集合意識を共有している。創門からしばらくは個々の人格を保っていたが、天君により剥奪された。同様に、魔力も全ての〈狭間の石〉のものが統合された莫大な質量になっており、個体は集合意識の端末のような存在で、個体としてはほぼ不死。
〈門〉および式門の開閉に関わる機構に組み込まれている。