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リリ

Lilli

▹素性不明の少女。年齢も定かでないが、外見上は七、八歳程度。薄紅の瞳、毛先が薄紅色をした白い髪に、少し尖った耳をしている。
精霊に似たを原動力とする術で、生物の傷病を癒やす能力がある。場合によっては致命傷や古傷、刺青のような、所謂きずでない身体の損傷まで回復させる。術の行使に伴って展開される魂・魔力の規模は、常人の域を大きく逸脱している。
セスレオンの前に初めて現れた時は、真っ白な肌をした若い女の姿で虚空から出現するなどしたため、近辺では『亡霊』と噂されていた。しかし、縁界で人の集住する場所に霊魂が存在することは皆無に等しい上、『亡霊』はその外観から物質的な次元でも存在していると推察され、説明のつかない状態だった。ユートの魄符と対峙した際にも『亡霊』に戻っており、『リリュカ』と呼ばれた。
ノアの前に初めて現れた時、彼の名前らしきものを呼び、触れようとするなどの執着を見せた。その際にセスが『亡霊』の名前を聞き出し、物質的な肉体を固定化させたのが現状のリリである。以降、リリは自身を名前で呼ぶなど言動は幼くなっているが、周囲の込み入った会話も正しく理解している他、時折口調が「私」と揺らぐことがある。自身については何も覚えておらず、本人が希望したためセスらに同行することとなった。
▹時折、現代の王国という前提では辻褄の合わない情報を口にするなど、記憶の混乱が見られる。特に、帷垂についての知識があり、当地の地名や食品の名を挙げ、部分的に帷垂の言葉も理解している。
▹正体は現・再開拓地域を〈沼地〉と呼ばれる不毛の地にし、〈沼の魔女〉と呼ばれる精霊リリュカの半身である。本来は水辺の白百合に宿る比較的弱い霊で、創門以前は近付く人間の子と戯れるのを好む穏やかな気質だった。『リリュカ』は当時の人間が愛称としてつけた名前。
▹創門によって人と隔絶されて以降、孤独を募らせていたリリュカは、イゼアの甘言に乗って人里に下り、イゼアが一帯の生物から魂を奪った後に残った魔力を分け与えられた。これにより金眼と化したリリュカは、そのまま逃亡したイゼアに代わって〈沼地〉発生の元凶と見做され、邪精イゼアに加担したという扱いを受けた。これはイゼアを取り逃がした旋界側の失態を霞ませる意図も影響している。強すぎる魔力が霊気を吸い続けるために自滅することも他者に近寄ることも叶わなくなり、永らく〈沼地〉に縛られることになる。その間、リリュカの膨大な魂を求めるオージュに欺かれ、極度に悲観的な視野狭窄の状態に陥り、溜め込まれた魂をオージュに分け与えるなどしていた。
▹後年〈沼地〉の調査に入った帷垂の魔術士に保護され、帷垂に移るが、帷垂の主導するある計画が難航した際に自ら助力を申し出た。その計画の為に、また同時に計画の失敗があってもリリュカが完全に失われないように、魂が二つに分けられた。リリはより精霊に近い状態、片割れは生物に近くリリュカの強大な魔力の過半を持つ状態になっている。
▹リリュカ、また潜在的にはリリも、〈沼地〉の件について自責の念が非常に強く、人間の死を極端に恐れる。治癒能力は本来の花の妖精としてのものではなく、後に特化させたものと推測されている。
▹〈淀み〉でオージュが討たれた際、イゼアによって一時的に完全なリリュカの形に戻される。花宵により再度分割され、リリは鍵守ジェミニとなったセスの庇護下で〈淀み〉に留まり、片割れである(りく)は北大陸での任務に戻っている。

ノア

Noir

南の異大陸から来た金眼。17歳男性。銀髪で、普段は目の色を紫に変えている。姓はない。
▹穏やかで落ち着いている。気弱というわけではなく、時と場合によっては強い物言いを選ぶなどする。
▹出身地では少々小柄という程度だが、アルデリシアの平均と比べてかなり身長が低いため、実年齢よりも幼く見られる。両親は既に他界しており、妻と〇歳の娘がいる。
▹故国では宮廷に出仕する『宮廷魔導師』の主席の立場にあり、東大陸の調査のために派遣されたが、その船が難破し遭難。転移術を用いて、最短距離にあった東大陸の海岸に単独で上陸した。金眼であることが露見し、双門同盟の追跡を受けていたところ、追跡任務を警邏隊で受託したレオンセスに遭遇。双門同盟の思惑に疑念を呈するセスの申し出を呑み、彼らと同道することになった。
▹かつて天君と対立した邪精イゼアは、旋界を追放され南大陸に逃げ延びた後、近海の島に金眼が生まれるようになる術を施した。ノアはその末裔である。その島の金眼は、身体にかかる負荷を度外視すれば、精霊と同じように制約なしに超常現象を起こせる。ただし原動力となるが巨大かつ密であり、その維持と能力行使の際に大量の魔力を要することが原因で、当地の平均よりも格段に短命である。
▹故国では人間と見做されず、地理的な隔たりも相まって長らく人間社会との軋轢があった。直近約百年は互いに妥協点を見出して比較的穏やかな関係が築かれていたが、数年前に王位を簒奪した先王の私生児が金眼を軍事力化。当時主席でなかったノアも国境紛争の掃討作戦に動員されていた。対象は戦場の軍人のみならず、民間人、医療や流通の拠点など、近年では攻撃対象外とされるものも含まれている。これらが原因となり、ノアは自己否定的で、自身を能力に限らず社会的にも人間ではないと考える傾向にある。
▹本名を『リオン』。『ノア』は同胞以外の全てに対して名乗る偽名で、綴りを逆に読んだものだが、アルデリシア人には当地の男性名として違和感のない別の発音に聞こえている。
▹オージュが討たれた後、鍵竜ハイリルカによって南大陸に帰された。

レオン・ケインズ

Leon Keynes

警邏隊員。25歳男性。やや明るい黒髪に碧眼。髪は無精で伸びたままにしていることが多い。
▹大様で気さくである一方、無用な危険や困難には挑まず、権力に依った立場にある人間には一定の距離を保つ傾向にある。また、基本的に式士精霊、霊的異能者に対して懐疑的、拒絶的。
〈沼地〉と通称される再開拓地域の南部にあるナキュラ出身。妹に霊的原因と思われる視覚異常があるが、医師または神職では解決できなかったため、現在は式士を頼る為に〈沼地〉を出ている。レオン本人にも飛蚊症のように視界を光の粒が飛ぶという症状があるが、あまり気にしていない。
▹帯剣しているが訓練した経験はほぼなく、警邏隊員としての態度は良くない。本来は兼業農家の長男で、警邏隊では予備隊員だったが、旅費調達の上で都合が良いため、故郷の支部長が一時的に正隊員の資格を与えている。やむを得ず剣を使う場合には鞘を払わないことが多く、刃を直接人に向けることを非常に嫌う。初期の〈沼地〉は他に行き場のない後ろ暗い素性の人間が多数流入しており、身近な大人達の中には重犯罪者もいた。刃物を人に向けることを避けるのは、こうした境遇にあって可能な限り人倫を踏み外さないようにという、無意識的な抵抗である。
▹〈沼地〉の再開拓開始当初、五歳前後で両親に連れられて移住している。当時は生活インフラ等の基本的な整備が最優先であり、教育が行き届いていなかったため、学校の類に通ったことがなく数年前まで文盲だった。現在も読み書きには時間を要する。
▹幼少期は食糧に事欠く生活を余儀なくされた時期があり、今でも食の質に対しては非常になおざりで、大抵のものは内容を気に留めず口にしたり、味わって食べない癖がある。
アルデリシアでは、都市部を除き共通語と地方言語を母語にする者が多いが、レオンは共通語のみを解する。レオンに限らず〈沼地〉出身者にはその傾向がある。
▹個人的に花を育てる趣味がある。なお観賞するためではなく、小遣い稼ぎの販売用。
▹十一歳のときに故郷にある丘に弟ラルフと登った際、時空が歪む超常的な現象に見舞われ取り憑かれたような言動を取ったことがあるが、本人は全く覚えていない。これを契機に霊的現象に対して強い嫌悪を見せるようになったラルフについては、神経質という程度の認識でいる。
▹レオンやラルフの数年後に移住してきた幼馴染の女性ジルと結婚の予定があった。〈沼地〉の外に出るにあたり保留となり、レオンからは待たなくても良いと伝えていた。
▹レオンを含むナキュラ在住者に起きた異常の原因であるオージュが討たれた際、光が飛ぶ症状等は解消された。その後は故郷に戻っているが、セスとは時折連絡を取っている。

セス

Seth

▹23歳男性。式士双門同盟に属していない非合法の〈蛇〉ではあるが、式士としての倫理に背く同業者には批判的。一方、式士にとって禁忌の存在である金眼に対し画一的な否定をしない点で、式士としては破格に好意的。
▹水の精霊プライア、狼の精霊ウィズとズィズ鍵竜ハイリルカの三者と契約している。精霊の形代として指輪や石を身に着けており、カモフラージュのため特別な力のない装飾品も複数着けている。更に髪を緑に染めていたりピアスが多数あったりとやや派手だが、性格は基本的に真面目。融通が利かない面もある。
▹プライアに関して全く冗談が通じず、言葉も通じない彼女を人間のように扱う。プライアが、死産した双子の妹のと泉の霊気が撚り合って生じた精霊であるため。多胎児の特性として、セスとプライアも互いの魂に繋がりを持っている。互いに同じ『ディア』という名で呼び合っているが、ふたり以外は知らない。通常の双子と違い一方が精霊化してしまっている影響で、セスは常時魂が綻んでいくような状態にあり、睡眠時はそれが悪化することにより、寝起きが悪くなっている。
▹プライアとは感覚を共有できる幅がかなり大きく、物理によらない視界を持つ精霊であるプライアと視覚を共有すれば、地下などの光源が全く無い場所でもある程度の行動が可能。また、プライアのいる位置を座標として、短距離だが物理を無視した転移ができる。正確な機序は本人も把握していないが、プライアの手を借りて旋界を経由し、縁界のプライアがいた位置に戻っていると推測される。他、言語によらない意思疎通もしている。
▹精霊との契約を示すは、プライアのものが左の肩から上腕に、狼のものが二つ組み合うように右の腰から腿に、竜のものは背中全面にある。プライアのものには刺青が合わせてあったが、リリが治癒の際に意図せず消してしまった。
▹右の掌に自身でつけた創傷の痕があったが、リリが治癒の際に意図せず消してしまった。
▹戦闘になった場合、狼に攻撃させる、プライアの水を攻守に用いる他、精霊に自身の体を使わせての近接戦もする。ただし憑依中のダメージはセス本人に残るため、差し迫った必要がなければ使わない。また、相手が女性の場合には躊躇するタイプ。
▹片手剣の基本的な扱いを習得している。式士であるセスにとって、そもそも白兵戦は前提にはなく緊急手段。そのため剣戟となっても、無用に打ち合うことは避け、退路の確保や相手の無力化に重点を置いた立ち回りをする。
▹現在のレオンを中心とした連れに対するくだけた口調は、レオンがそれを契約に盛り込んだためのもの。本来の話し方についてレオンに非難されている。素の口調はやや堅めで、敬意を持った文脈でない場合には高圧的に聞こえる話し方をする。王都方言を使う。
▹署名にも『セス』のみを用い、フルネームは不明。偽名としてトーマスやジェイルといった名を使うことがある。本人曰く『セス』は本名。
▹新聞や本を日常的に読む。
▹カリグラフィが趣味。習得していない言語であっても、文字や表記を見るのを楽しむ。東大陸の各国で公用語とされている言語については、文字の表記と発音規則の大体のところを記憶している。
ギゼラム帝国の公用語ができる。
▹不定期的に手紙を送っているらしいが、連れには宛先を言わない。
▹『〇一二二〇八五二』号の双門同盟式士と関係がある。
▹非合法的なものも含めた口入れをする地下組織、通称〈穴〉で、ある一帯を縄張りとするエルヴィアと知人関係である。
▹本来は金髪で、虹彩も琥珀色である。平時はどちらも緑だが染料等ではなく、プライアを軽度の憑依状態に保っていることによるもの。副作用的なもので染色が主目的ではない。
▹後に鍵守マギの後継ジェミニとなる。